『インターネットが苦手なこと』
こんにちは。Rock Me!代表の小林宗織です。
初めてインターネットに出会ったとき
- ・ホームページというものを作れば一個人が自由に情報を発信できて、しかも世界中の誰もが自由にその情報にアクセスできる
- ・世界中のどこにいても、通信回線があればどこの誰とでも自由にメールで情報交換できたり、ファイルを交換できる
今では当たり前すぎるこの2つが、当時学生だった私には大きな衝撃でした。
ほんのその数年前、カナダと東京で遠距離恋愛をしていた彼女がいました。やり取りが常にエアメール(届くのに1~2週間かかる国際郵便)だったので、特に「Eメール」には最初ビックリしました。(笑)
あれから、もうすぐ20年。ネットはものすごーく進化しましたよね。
今は、
- ・その日のうちにネットで注文した本が届きます。
- ・地球の裏に住んでいる彼女ともビデオで無料通話できます。
- ・映画館に行かずとも映画も鮮明な映像で見れます。
- ・ずっと連絡が途絶えていた懐かしの友人とつながってメッセージを交換できます。
- ・お役所や銀行の手続きもネットで簡単に済ませられます。
- ・みんながおいしいと言っているレストランを簡単に見つけられます。
- ・特に方向音痴の自分には、Google MapとGPSは神の恵みとしか思えません。
少なくとも自分は、インターネットにとんでもない恩恵を受けています。
とにかく、生活を楽に便利に楽しくする方向に、インターネットはとてつもなく進化してきました。
自分も社会人1年目からネットを中心に生きてきたので、この進化の過程を目の前で見れたこと、そして少しながら携わってこれたことを嬉しく思います。
ただ、その反面最近は、ずっと万能(良い方向にだけ進化する)だろうと思っていたネットにも弱点があるのではないかなと思うようになりました。
あるとき、こんなことがありました。
九州の鹿児島を一人旅していた時のことです。
九州は焼酎で有名なので、泊まっていた宿のフロントの方に聞いて、焼酎しか置かない焼酎専門のバーに行きました。
鹿児島まで来て、東京でも飲めるような有名な銘柄を飲んでもあまり面白くありません。
なのでバーのカウンターで何を飲むか迷っていたところ、たまたま隣に座っていた男性(Sさん)が焼酎に詳しい方らしく、いろいろな種類の焼酎をチョイスして、その焼酎がどんな製法やこだわりで造られているのか解説までしてくれました。
おかげで、とても美味しくいただけました。
なぜそんなにSさんが焼酎に詳しいのか聞いたところ、焼酎の蔵元で働いていらっしゃるとのこと。そして、いろいろ会話をしているうちに、インターネットの話題になりました。
「やはり今は、Sさん蔵もインターネットで販売されてるのですか?」
Sさん「はい。3年前から始めたのですが、今は売上が店舗販売の1/3まで上がってきています」
「おお、すごいですね。ではこれからもネットでもっと売れるように、仕掛けていかれるんですよね」
Sさん「それが…実は今年いっぱいでネット販売をやめるんです」
ビックリしました。焼酎ブームの真っただ中だし、その蔵元は有名な焼酎を作ってましたので。
「えーっ、もったいない。なぜですか?」と聞きました。
Sさん「インターネットで自分たちの造る焼酎が売れて、都会の若い人たちにまで好まれ飲まれるのは当初嬉しかったのですが、どうも様子をみていると、”なぜ、どんな思いを込めて、どんなこだわりで作られたお酒なのか”というストーリーが飲み手にほとんど伝わっていないことが分かったからです。」
なるほどな、と思いました。
Sさん「何が大切なのかを、幹部みんなでしっかり議論したんです。インターネットが悪いのではなく、私たちが先代から受け継いで100年以上護ってきたこだわりやその焼酎のストーリーは、人の手、人の口を介してしか伝わっていかないんです。販売店できちんとお酒の特徴を説明されて、飲んで、好きになってくださった方は、ずっと飲みつづけてくださる。すると飲み手と蔵元の間に信頼関係が生まれる。それを作ってくれるのは、インターネットではなく、人間の販売員。長い目で蔵のことを考えたら、目の前のブームより、こういう信頼関係のある飲み手を増やして、維持していくことのほうが、大切だと考えました。」
さすがは100年以上続く蔵元さんです。とても冷静で、カッチョイイ判断だと思いました。
ブームが起きている数年だけのことを考えれば、ネットに力を入れれば間違いなく目の前では儲かるでしょう。しかし、ブームが終わり、焼酎の人気が下がったときに、その売上に依存して大きくなった会社は大いに困るでしょう。ブームに乗れば大量生産で味はどうしても落ちますし、もともとのファンが去ってしまう。そしてブームで飛びついた人は、そのあともずっとその焼酎を買い続けず、次のブームに飛びつくでしょう。
当時、ヤフーで働いていた私は、複雑な思いで話を聞いてました。
自分はインターネットは万能で、ネット販売は地方の小さな産業やブランドにも活気をもたらす最終兵器くらいに考えていたからです。
「アナログでしか伝わらないものは確かにあるな…。」
その店を後にしたときに思いました。
Sさんが一生懸命解説してくれた焼酎とそのこだわりは、自分の頭に焼き付いて、その後も焼酎を飲むときにはSさんお奨めのものをオーダーするようになりました。付加価値の高いアナログ体験をして、自分と蔵元の間に信頼関係が生まれたからです。
この一件がずっと気になって、ことあるごとにアタマをよぎります。
「あの蔵元が納得のいくネット販売があるとしたら、どんなものだろう」と。
ずっと答えなんて出ません。
ネットは、ある商品にこめられたストーリーやら、情熱やら、想いやらをブラウザのなかで伝えるのが苦手です。
みんなそれを伝えようと、ながーーーい商品説明ページを作ったり、動画を載せたりと頑張っていますが、同じブラウザの同じ質感のなかでは、価値の違いがなかなか伝わりません。
こだわって丁寧に作った有名ブランドも、無名大量生産品も、商品の価値が下手すると同じくらいに見えてしまうのです。
ネットの表現力、伝える力は、残念ですがお店で店員とコミュニケーションすればほんの数分で得られるアナログ体験に勝てません。
だからむしろ最近は、こう考えるようになりました。
「ネットがアナログな体験を上回ろうとするなんて、おこがましいくらいで、デジタルにできることなんて、所詮はアナログな体験のお手伝いにすぎないんじゃないか」と。
「これはネットでできちゃうから」で何でもかんでも人間の介在をカットしちゃうのは、スピードや利益が目の前では高まるかもしれないけど、利用者の視点でみれば、プライスレスなアナログ体験を削られちゃって、長い目でみるとみんなが損しちゃう場合もあるんではないでしょうか。
ネットに触れる人たちの限られた時間のなかで、素敵アナログ体験へのトリガーをいかに増やせるかが、これからネットの向かうべき一つの方向な気がしています。
少なくとも自分はRock Me!という会社の大切な課題のひとつにしたいと考えてます。
だって、都心の高級スーパーに並ぶ1本300円もするブランドトウモロコシは美味しいけど、畑でトウモロコシをもぎって太陽の下で食べるほうがどういうワケかずっと美味しいし、思い出に残るんだよね。
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Welcome to Rock Me! (Corporate Profile... 2011.03.31
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『プレゼンの極意』 2012.10.29
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